2015年9月14日月曜日

2015年9月「がん医療市民講座」講演抄録、『がんになっても安心して働くことができる兵庫県をめざして』、その1

 近年、医療技術の進歩や医療提供体制の整備等により、長期にわたって治療を受けながら就職を希望される方が多くなっています。然しながら、就労者の多くが依願退職したり解雇されているのが実態です。兵庫県では、県立がんセンターが「がん患者等に対する就職支援モデル事業」モデル事業所として指定されています。
兵庫県内での取り組みの実際や課題・展望をそれぞれの担当者をお迎えして話を伺いました。

Ⅰ、日  時  2015年9月13日(日) 14:00~16:30
Ⅱ、場  所  神戸市立医療センター中央市民病院 1階 講堂
Ⅲ、テーマ がんになっても安心して働くことのできる兵庫県をめざして

講演内容
(1)「当院での就労支援モデル事業~実施の実際と課題~」
      講師  県立がんセンター相談支援センター 橋口周子氏
(2)「仕事とお金のお悩み相談会~専門家チームで支えたい~」
      講師  兵庫医科大学病院相談支援センター 西村裕美子氏
(3)「患者・家族・医療者、そして企業における、情報の過不足ない共有で 就労の課題解決へ」
      講師  がんと共に生きる会 副理事長     濱本満紀氏

このブログでは、(1)「当院での就労支援モデル事業~実施の実際と課題~」
      講師  県立がんセンター相談支援センター 橋口周子氏の講演を記録します。

がんの罹患者数800,014人の内、年齢別では・・・20-64歳:259,304人、20-69歳:365,192人と、3人に1人は就労可能年齢でがんに罹患しています。
・仕事を持ちながら、通院している方は、325000人、内訳 男性;14.4万人、女性18.1万人



左図は、がんになった場合に心配することという、日本能率協会総合研究所「がんのメカニズムと予防に関する調査」(2011年)の表です。

がん患者の就労の現状と問題
1.がん患者の就労環境について
•従業員1000人以上の大企業・官公庁:28%
•従業員500999人 : 6%
•従業員100499人 :19%
•従業員30 99人 :16%
•従業員 1~ 29人 :26%
2.診断時に勤務していた会社や営んでいた事業などについて
•勤務者の34%が依願退職・解雇
•自営業の方の13%が廃業

診断後の収入の変化は、診断前の平均年収は、約395万円だったものが、診断後では約167万円と半分以下に低下しています。

 

就労支援(国の施策)は、左の図です。














がん患者等に対する就職支援モデル事業は、左図です。








兵庫県立がんセンターでの長期療養者に対する就職支援モデル事業の流れは、
相談実績は、(2013年10月から2015年06月)相談件数89件、新規求職者41名、新規就職件数6件(内、2件は自己就職)でした。
 
今までの就職支援から見えてきたことは、兵庫県立がんセンターでの就職支援の傾向として、①治療継続中よりも経過観察中の患者さんが多い。②診断後1~2年くらいの方が多い。③就職する際に、病名は伏せている傾向がある。④勤務先への要望が、比較的少ない方が多い。⑤就職先は、もともとのお仕事とは異なる業種に就くパターンが多い。ということがあげられる。

就労に関する相談対応事例
  仕事場に自分の病気のことをどこまで話せばよいのか?
  仕事復帰したが、フルタイムで働くことが体力的に辛く、上司に相談したところ、雇用形態の変更を提示された(正社員⇒パートへ)。ちゃんと働けるようになれば、元の雇用形態に戻すといわれているが、応じてよいのか?→社労士に紹介した。
  治療後の体力低下が著しく、予定していた時期に職場復帰ができるか、現時点での見通しが知りたい。身体の負担が最小限になるために活用できる制度などはあるのか?

2年余りの就労支援を行ってみて ~課題や難しさ~についてまとめます。
  対応範囲の拡大の必要性。就業だけでなく、就職準備に関する支援や離職防止の支援などが必要です。
  就職先の開拓の必要性
  がん患者は「就労困難者」の位置づけではないことからくる弊害。障害者雇用の特典が企業にないことが問題である。

医療者が就労支援を行うために次のことがあげられます。
①前提として、労働・社会保障に関する知識を持つ必要があります。就労に関する支援は、医療のみでは完結しない。が、私たち医療者は、どうしても労働に関する知識が乏しい。そのことを自覚する。
  職種による専門性を持ってできること、すべきことを考えると。
–病院にいる医療・福祉職の専門性、得意分野を知っておき、適切に連携していくことが必要。
③部署(持ち場)に応じてできること、すべきことを理解する必要があります。病棟・外来、相談部門など

看護師ができる就労に関する支援
•「仕事をすぐに辞めなくて良い」ことを伝える
•治療と仕事(生活)を両立できるような副作用対策や治療スケジュールの調整

•経済的問題の裏に就労に関する課題がないかを見極める。