2015年7月14日火曜日

2015年7月「がん医療市民講座」講演抄録、(3)がんとこころの基礎知識その2

 2015年7月12日に、神戸市勤労会館にて兵庫県立光風病院 精神腫瘍医 見野耕一医師を迎えて、「がん医療市民講座」がありました。テーマは、「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」です。
 講演内容は、(1)緩和ケアとは、(2)サイコオンコロジーとは、(3)がんとこころの基礎知識、でした。
今回は、(3)がんとこころの基礎知識 の後半部分の講演内容を掲載します。



(3)がんとこころの基礎知識
 (3-1).がんと心、(3-2).ストレスと上手な付き合い方、(3-3).家族が病気になったとき、家族はどうしたらいい?の3点の (3-3) を詳しく説明します。



  (3-3). 家族が病気になったとき、家族はどうしたらいい?
3-3-1)がん患者の家族
 がんと告知をされると、家族全体に変化が生まれます。ご家族の精神的な問題に限らず、患者さんの身の回りのお世話という現実的な問題、家族の中での役割の変化、経済的な問題などさまざまです。
 そのような中で、ご家族は、「患者さんとどのように接したらいいのか」と戸惑われ、「患者さんが頑張っているのに、家族が弱音を吐いてはいけない」とご家族自身が精神的負担を感じられている場合が多いです。

3-3-2)家族ができる心のメンテナンス3か条
1.患者さんの話に黙って耳を傾ける
 患者さんが話をしていると、ついつい口をはさみたくなるものですが、そこは少しこらえて、患者さんの話に耳を傾けてはいかがでしょうか。患者さんの話を黙って聞いてあげることが患者さんの気持ちの理解や共感につながり、患者さんの頑張る力を引き出します。
 患者さんから「つらい」という言葉が聞かれると家族が元気づけようと「そんなこと言わずに頑張ろうよ」と口をはさむことはよくあります。そうすると、患者さんは本当の気持ちを話せなくなります。このような場合には、何がつらいのか患者さんから聞き、つらさを共有してあげることが患者さんの頑張りにつながることがあります。

2.病気や死に関する話題について率直に話し合う
 患者さんがご自分の病気や死に関する心配を口にしたときには、何が心配なのか、将来の計画をどうしていきたいと考えているのかなどを率直に話し合い、患者さんの意思を尊重するために家族に何ができるかを考えてみてはいかがでしょうか。患者さんの心配を一緒に考えてあげることは、患者さんの安心感につながります。

3.これまでどおりに接する
 病気をきっかけに特別扱いされることで患者さんにとっては家族の中での孤立感を強める場合があります。担当医に、現在の身体状況で何が出来て何が出来ないかを確認したうえで、患者さんができること、やりたいことを一緒に相談していきましょう。時には、ご家族の手助けも必要となるでしょうが、これまで通りのご家族の対応が患者さんの生きがいにつながります。

3-3-3)ご家族の心のメンテナンス
 がん患者さんの心のメンテナンスを行う上でご家族のメンテナンスも必要不可欠なのです。

 「自分の心のメンテナンスが患者さんの治療を支える」と考えて、ご家族自身も積極的に心のメンテナンスを見直してみましょう。

●ご家族のストレスに気づきましょう  ストレスによる心と体の反応がご家族にも見られることがあります。 
 まずは、ご家族がご自分のストレスに気づくことが大切です。
●ご家族もストレスと上手に付き合いましょう  ストレスとの上手な付き合い方を参考に、ストレスをコントロールしていきましょう。

2015年7月「がん医療市民講座」講演抄録、(3)がんとこころの基礎知識その1

 2015年7月12日に、神戸市勤労会館にて兵庫県立光風病院 精神腫瘍医 見野耕一医師を迎えて、「がん医療市民講座」がありました。テーマは、「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」です。
 講演内容は、(1)緩和ケアとは、(2)サイコオンコロジーとは、(3)がんとこころの基礎知識、でした。
 今回は、(3)がんとこころの基礎知識 の前半部分の講演内容を掲載します。



(3)がんとこころの基礎知識
 (3-1).がんと心、(3-2).ストレスと上手な付き合い方、(3-3).家族が病気になったとき、家族はどうしたらいい?の3点を詳しく説明します。

(3-1).がんと心
 ストレスとは、ある出来事(ストレッサー)や、その出来事を経験したことで生じる心身の反応のこです。がんが疑われたときや診断、病状の説明、治療の経過、 再発や転移など様々な出来事を経験すると、私たちは、不安や落ち込み、悲しみや絶望感を感じ、眠れなくなったり、食欲がなくなり食事が喉を通らなくなるなど、心も体も大きく動揺します。
 一方で、私たちは、ストレスを受けて体調を崩しても、 一定の休息をとれば、もとの状態に回復する力(ホメオスタシス)も持っています。この力が十分に発揮できるように、ストレスを上手くコントロールすることが大切なのです。

(3-2). ストレスと上手な付き合い方

(3-2-1)がんによるストレスの基礎知識
 病気になったとき、心の変化とどう付き合えばいいのでしょうか?
 ストレスは悪い面ばかりではありません。ストレスの研究者ハンス・セリエ博士によると、ストレスは「人生のスパイス」です。つまり、ストレスという適度なスパイスがあるからこそ、私たちは人生をより料理でき、自分を向上させながら生きていけるのです。たとえば、「疲れ」というストレスを感じなければ、働きすぎて体を壊してしまいます。また、「悔しさ」を感じなければ努力することもできません。「不安」を感じなければ、どんどん危険な道にすすんでいくかもしれません。
 ストレスをコントロールする上では、「ストレスをなくす」のではなく、「ストレスと上手く付き合う」ことが大切なのです。


(3-2-2)適応障害・うつ病
 がんの告知を受け心も体も大きく動揺し、一時的に日常生活を送ることが困難になったとしても、ホメオスタシスのおかげで時間とともに、回復していきます。しかしながら、あまりにストレスが強い場合や長期間ストレスにさらされていると、ホメオスタシスが崩れてしまい、回復する力が十分に発揮されない場合があります。

 ここでは、代表的な2つのストレス性の疾患を紹介します。このような場合には、患者さんの生活の質が低下したり、がん治療に影響が出たりすることがありますので、注意が必要です。

(3-2-2-1)適応障害
 がん治療を受けながらの生活は、これまでの生活と一変した環境になります。このように新しい環境に慣れることができず、頭痛、動悸、体のだるさ、不眠などの体の症状や、落ち込み、不安、集中力の低下、意欲の低下などの心の症状のために、日常生活に支障をきたした状態を適応障害と言います。うつ病と似た症状ですが、原因(ストレッサー)がはっきりしていたり、原因から離れると普通に過ごすことが出来る点が大きく異なります。


(3-2-2-2)うつ
 特に原因が分からないのに、体の症状や心の症状 2週間以上続く場合には、うつ病の可能性が考えられます。


(3-2-3)ストレスと上手な付き合い方


 病気になったとき、心の変化とどう付き合えばいいのでしょうか?
 ストレスは悪い面ばかりではありません。ストレスの研究者ハンス・セリエ博士によると、ストレスは「人生のスパイス」です。つまり、ストレスという適度なスパイスがあるからこそ、私たちは人生をより料理でき、自分を向上させながら生きていけるのです。たとえば、「疲れ」というストレスを感じなければ、働きすぎて体を壊してしまいます。また、「悔しさ」を感じなければ努力することもできません。「不安」を感じなければ、どんどん危険な道にすすんでいくかもしれません。

 ストレスをコントロールする上では、「ストレスをなくす」のではなく、「ストレスと上手く付き合う」ことが大切な のです。

3-2-3-1)自分で取り組む心のケアとしては、次のようなものがあります。
●人に相談する
 ・身近な信頼できる人に話を聞いてもらい、愚痴をこぼす
 ・患者会やサポートグループに参加する
 ・経験者に相談する
 ・主治医・担当医・看護師に相談する
 ・精神科や心療内科で相談してみる
心のなかを整理する
 ・疑問や心配事、不安に思っていることを紙に書き出す
 ・今考えるべきこと、後で考えるべきことをわける
 ・正しい情報を集める(入手先の紹介も含める)
●病気を忘れる時間を作る
 ・仕事や家事をする
 ・趣味に打ち込む
 ・散歩をする
 ・体を動かす
 ・買い物をする
 ・好きなテレビや映画を見る
 ・読書をする
●いつもとは違う考え方をする
 ・自分が心配していることが実際にどれくらいの可能性で起こるのか冷静に考えてみる
 ・心配事、不安に関連した考えを批判的に眺めてみる
 ・家族、友人、他の患者の言葉を思い出してみる
 ・同じ状況におかれた家族や友人にどのようにアドバイスをするか考える
 ・「5年後、10年後に同じ体験をしたら?」あるいは「元気なときの自分ならどう考えるのだろう?」と問いかけてみる
 ・過去のつらい状況を乗り越えるのに役立った考え方を思い出して応用できるか考えてみる
●いつもとは違う対処法方を試す
 ・過去のつらい状況を乗り越えるのに役立った方法を思い出して試してみる
 ・経験者や他の患者さんがおこなっている取り組みを試してみる
 ・できるだけ頭を自由にして思いつくまま対処法を考えていく(→問題解決療法)
●受け入れる
  病気になると、不安は誰もが感じるもの
  落ち込みや不安になっている自分を責めない
●心をリラックスさせる方法を身に付ける
  →漸進的筋弛緩法や呼吸法を講演では紹介されました。 

3-2-3-2専門家と取り組む心のケア
 患者さんやご家族と一緒に心のケアを行う専門家がいます.


 病院によって「精神科」「心療内科」「精神腫瘍科」「サイコオンコロジー科」など標榜する診療科が異なります。あるいは「緩和ケアチーム」「支持療法チーム」「リエゾンチーム」というサポートチームに所属していることもあります。
 医師(精神科医/精神腫瘍医/心療内科医)や専門看護師、臨床心理士が患者さんやご家族からお話を伺い、お困り事に応じて対応を考えていきます。カウンセリングが基本になりますが、主には医師が薬を使った治療を行い、臨床心理士がお薬を使わない治療(心理療法/リラクセーション)を担当します。認定看護師・専門看護師は患者さんが生活しやすいようにケアや生活の工夫の相談を受けています。


<質問> どんな時に相談に行くといいですか?
<答え> 以下のようなことでお困りの時にはご相談ください。
    ○うつ病/適応障害の症状にあてはまる
       ―何をしても気分が晴れず、1日中悲しい気分や絶望感が続く
     ―いつまでたっても、今まで楽しめていたことが楽しめない
    ○抗がん剤の後のだるさや吐き気が長引いてしまう
    ○自分なりに色々と工夫をしても、元気が出ない
    ○自分あるいはご家族で取り組める心のケアについてもっと知りたい
    ○ストレスについて知り自分で対処できるようになりたい

3-2-4薬物療法
抗うつ薬
•効 果 「気分の落ち込み」、「興味関心の喪失」、「気力の低下」、「体がだるい」、「食欲がない」、「一日中イライラして落ち着かない」「一日中不安で仕方がない」などの症状を改善する目的で使用します。
•副作用 飲み始めに「軽い眠気」「吐き気」「便秘」「喉の渇き」が比較的よく見られますが、徐々におさまります。程度が軽ければ、飲み続けてください。
• 抗うつ薬の効果が出るまでに2〜3週間かかりますので、副作用が出たからと言って飲むのをやめてしまうと、せっかくの薬の効果が得られなくなってしまいます。

抗不安薬
•効 果 「不安でそわそわして落ち着かない」「考えたくない事が頭から離れない」「胸がドキドキする」「息が苦しい」などの症状を和らげる目的で使用します。
•副作用 「眠気」「ふらつき」「足腰に力が入りにくい」「物忘れ」が比較的よく見られます。
•ほとんどの場合、お薬の種類や量を調整することで改善できます。

睡眠導入剤
•効 果 「工夫をしてもなかなか寝つけない」「夜中何度も目が覚める」「早朝、暗いうちに目が覚めてしまう」などの症状を改善する目的で使用します。 
•副作用 「眠気」「ふらつき」「足腰に力が入りにくい」「物忘れ」が比較的よく見られます。
•ほとんどの場合、お薬の種類や量を調整することで改善できます。

3-2-5)心理療法

 患者さんが抱えている心理的負担の軽減を目標に、治療者と患者さんが協力しあう治療法です。患者さんが本来持っているストレスの耐性を高め、心のバランスを整えるお手伝いをします。

3-2-6)リラクセーション
 リラクセーションとは、自分の心身を意識的にリラックスさせるテクニックです。 リラックス状態を得ることで、不安・緊張を軽減させたり、寝つきをよくさせたり、体のだるさや痛みを間接的に和らげるなどの効果があります。化学療法中の吐き気や不快感にも効果があると言われています。
●筋弛弛緩法 心が緊張しているときには体の筋肉も緊張しています。逆に、体が緊張したままで心をリラックスさせることは難しいです。そこで、体がリラックスした状態を先に作ることで心をリラックスした状態へと導く方法です。 体の一部(たとえば、手や肩)の筋肉に意識的に力を入れ、その後に力をスッと抜きます。これを徐々に、手や肩から顔面や足など全身に広げていきます。 リラックス状態を体感するには、少し練習が必要ですが、一度覚えると一人でいつでもどこでもおこなえるようになります。
●呼吸法 心が緊張しているときには呼吸が浅く、荒くなります。逆に呼吸が浅く、荒いと「体に何か大変なことが起こっているのでは」と不安になり心がリラックスできなくなります。そこで、呼吸を整えることで心をリラックスした状態へと導く方法です。 いつもよりもゆっくりしたペースで(たとえば、頭の中で「1,2,3,4」と数える)鼻から息を吸います。約1秒息をとめ、その後いつもよりゆっくりしたペースで(たとえば、頭の中で「5,6,7,8,9,10」と数える)で口から息を吐きます。 ご自分の体と心がゆったりできるペースをつかむまでには、少し練習が必要ですが、一度覚えると一人でいつでもどこでもおこなえるようになります。

3-2-7)生活についての相談
 体や心の状態に応じて、日常のケアや生活での工夫の方法を一緒に検討します。 相談内容によって他の専門家を紹介したり、治療チームが円滑に支援できるように橋渡しも行います。
●心の専門家の紹介   →職種の紹介と内容:カウンセリングが基本で医者が薬物療法、心理士が心理療法を担当します

●心の専門家に相談する   →どんな時に相談に来て欲しいかを示す   
             →どこに行けば相談できるか一覧を示す

2015年7月「がん医療市民講座」講演抄録、(2)サイコオンコロジーとは

 2015年7月12日に、神戸市勤労会館にて兵庫県立光風病院 精神腫瘍医 見野耕一医師を迎えて、「がん医療市民講座」がありました。テーマは、「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」です。
 講演内容は、(1)緩和ケアとは、(2)サイコオンコロジーとは、(3)がんとこころの基礎知識、でした。
今回は、(2)サイコオンコロジーとはの講演内容を掲載します。



(2)サイコオンコロジーとは
 サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)は、「心」の研究をおこなう心理学(サイコロジー= Psychology)と「がん」の研究をする腫瘍学(オンコロジー= Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、 1980年代に確立した新しい学問です。
 サイコオンコロジーでは、がん患者さんとご家族の心理・社会・行動的側面など幅広い領域での研究・臨床現場 実践・教育を行います。
 サイコオンコロジーの臨床・実践活動に取り組む専門家をサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)といいます。

 サイコオンコロジストの役割は以下の3点です。
1. 疾病や治療に関する適切な情報を提供すること
2. 決して孤立しないように情緒的に支えること
3. 治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように 医学的なサポートを提供すること

 特にこのような専門的なサポートを患者さんにあわせて用意をする専門医が精神腫瘍医です。
 精神腫瘍医は、がんの治療に精通し、患者さんとご家族の支援に対して、専門的なアドバイスと最適な薬物療法を 提供する知識と技術をもった専門家です。

 サイコオンコロジーには、大きく2つの目標があります。
1)  がんが、がん患者やご家族、スタッフの精神面に与える影響についての検討を行う。
  がんが患者さんやご家族の精神面に与える影響とその対処法を研究し、患者さんとご家族の精神的ストレスを和らげて、クオリティ・オブ・ライフ(生命の質・生活の質)の向上を目指します。
  同時にがん医療や患者さん・ご家族のケアに携わるスタッフの精神面の問題も扱います。

2)  精神的・心理的因子が、がんに与える影響についての検討を行う。
  心理的および社会的因子(家族、職場、地域、社会資源など)が、がんの発症や再発、治療経過、生存に与える影響について研究します。

 サイコオンコロジーの代表的な研究として、がん患者の精神・心理的苦痛に対するグループ療法を紹介します。

 1980年台には、Spiegelらが進行・再発期の乳がん患者を 対象に実存的心理療法を基盤とするグループ療法を実施 し、QOLの改善だけでなく生存期間の延長についての効果を報告しました(Spiegel et al. ,1989) 2000年に入り追試が行われ、グループ療法の生存期間についての効果は否定されていますが、QOL向上には有効であることが確認されています。  (Goodwin et al. ,2001) 日本では保坂らが、乳がん患者を対象とした構造化されたグループ療法プログラムを開発し(Hosaka et al. ,2001) 福井らも同様に乳がん患者を対象としたグループ療法プログラムを開発し、その有効性を確認しています(Fukui et al. ,2000)



 サイコオンコロジストの現状を説明します。
 患者さんとご家族が、いまのがん医療に強く改善を求めているものに精神面でのサポートがあります。いわゆる「心のケア」とは、腫瘍と診断されたときから、患者さんが日常生活を可能な限り変わらずに送れるように支援をすること、納得できる治療を受けられるように 支援をすることを意味します。

 「心のケア」をより具体的にあげますと、以下の3点です。
1 疾病や治療に関する適切な情報を提供すること
2 決して孤立しないように情緒的に支えること
3 治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、 気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように医学的なサポートを提供すること

 サイコオンコロジストの仕事は、次のようなものです。
 不眠(寝付きが悪い、寝ても途中で覚めてしまう)や食欲不振(食べようにも食べられない、食欲がわかない)。疲労やだるさ、不安、落ちつかなさなどさまざまな体の症状をあらわし、治療を妨げる原因にもなるうつ病を見つけ、がんの治療を続けられるように治療をすることが、サイコオンコロジストの仕事です。

 2010年度において常勤の精神腫瘍医(精神科医・心療内科医)が配置されている施設は、都道府県がん診療連携拠点病院では84%、地域がん診療連携拠点病院では65%です。
 今後、がんの治療を受けておられる患者さんとご家族のためにも、精神面でのサポートを充実させ、診断を受けたときから精神的なサポートを提供でするために、精神腫瘍医を広くがん診療 連携拠点病院に配置することが重要です。

 私たちサイコオンコロジストは、がん医療においてより優れた精神的なサポートを用意する努力を続けるとともに、皆様方に、がん診療連携拠点病院へ常勤の精神腫瘍医を配置するためにご理解とお力添えをお願い申し上げます。


2015年7月「がん医療市民講座」講演抄録、(1)緩和ケアとは

 2015年7月12日に、神戸市勤労会館にて兵庫県立光風病院 精神腫瘍医 見野耕一医師を迎えて、「がん医療市民講座」がありました。テーマは、「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」です。
 講演内容は、(1)緩和ケアとは、(2)サイコオンコロジーとは、(3)がんとこころの基礎知識、でした。
今回は、(1)緩和ケアとはの講演内容を掲載します。


(1)緩和ケアとは
 WHOによると、「緩和ケアとは生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛を予防し緩和することにより、 患者と家族のQuality of Lifeを改善する取り組みである。」と定義されています。

 がん治療の目標は,治癒や予後の延長とQOLの向上です。また、緩和ケアの目標はQOLの向上により、予後に良い影響を与えることです。がん治療の目標と緩和ケアの目標は一致しており、互いに補い合う関係にあるとする「包括的がん医療モデル」が現在の医療の考え方です。

 がん対策推進基本計画では、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点的に取り組む課題とされています。
 緩和ケア普及啓発についての現状は、国民の医療用麻薬への誤解や緩和ケアが終末期を対象としたものとする誤った認識があるなど、依然として国民に対して緩和ケアの理解や周知が進んでいません。



 緩和ケアにおいて大切なことは、1)苦痛(つらさ)を和らげること、2)患者さんの気がかりに気づくこと、3)様々な場面で提供できる体制があることの3点です。

 病院では、図の「生活のしやすさに関する質問票」が使われています。


今回は、全人的苦痛の枠組みで苦痛を考えていきます。


1)身体的苦痛として次のようなものがあります。
• 痛み:がん病変自体によるもの
• 呼吸困難:がんと関連するもの
• 倦怠感:がんと関連するもの
• 口内炎、悪心:抗がん治療に関連するもの
• 不眠:がんと関連するもの
• 歩行が困難:身体能力の低下に伴う苦痛 • 関節炎による膝痛:がんに関連しないもの

2)精神的苦痛として次のようなものがあります。
気分がすぐれない
いらいらする
そわそわして何も手につかない この先どうなるか不安だ
とにかく元気がでない
心配はかけたくない
妻に申し訳ない
家族の今後が心配だ


3)社会的苦痛として次のようなものがあります。
治療費が払えるかどうか?
病気のために仕事に行けない
家のローンが払えるのか?
病院での生活が苦手
新たな人間関係がわずらわしい
家で過ごしたいが可能だろうか?
子供に病気をどう伝えたらいいだろうか等

4)スピリチュアルな苦痛として次のようなものがあります。スピリチュアルな苦痛とは、自分の存在や意味を問うことに伴う苦痛のことです。
死ぬのがこわい
自分の人生に価値があったのか
あの時ああしておけばよかった(後悔)
優しくしてもらえる人間ではない(罪責感)
迷惑をかけるばかりだ
なぜ私だけが?


 このように幅も広く、深さも深いたくさんの苦痛をひとりの医療者がすべて評価して対応することは、難しいためチームアプローチが重要になってきます。

 患者さんが抱えている問題は多様ですので、様々な職種が対応するほうが理にかなっています。
 また、少人数、同じメンバーで過ごすと知識や技術がマンネリ化しますが、いろいろな人が関わることで新しいアイデアが出てきます。
 職種ではなく、人の違いも重要です。医療とはいえ、人間関係ですので、どうしても「合う/合わない」があります。さきほどのスピリチュアルな面など、患者さんは誰にでも話すことではありません。その患者さんが話しやすい人が対応の中心になることがあってもいいと思います。
 皆で協働して行っていくことで、我々自身のケアにもなるでしょう。こういう理由があるため、少なくともつらさの評価、対応に関しては、チームで行われるべきだと思います。