2015年7月14日火曜日

2015年7月「がん医療市民講座」講演抄録、(2)サイコオンコロジーとは

 2015年7月12日に、神戸市勤労会館にて兵庫県立光風病院 精神腫瘍医 見野耕一医師を迎えて、「がん医療市民講座」がありました。テーマは、「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」です。
 講演内容は、(1)緩和ケアとは、(2)サイコオンコロジーとは、(3)がんとこころの基礎知識、でした。
今回は、(2)サイコオンコロジーとはの講演内容を掲載します。



(2)サイコオンコロジーとは
 サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)は、「心」の研究をおこなう心理学(サイコロジー= Psychology)と「がん」の研究をする腫瘍学(オンコロジー= Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、 1980年代に確立した新しい学問です。
 サイコオンコロジーでは、がん患者さんとご家族の心理・社会・行動的側面など幅広い領域での研究・臨床現場 実践・教育を行います。
 サイコオンコロジーの臨床・実践活動に取り組む専門家をサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)といいます。

 サイコオンコロジストの役割は以下の3点です。
1. 疾病や治療に関する適切な情報を提供すること
2. 決して孤立しないように情緒的に支えること
3. 治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように 医学的なサポートを提供すること

 特にこのような専門的なサポートを患者さんにあわせて用意をする専門医が精神腫瘍医です。
 精神腫瘍医は、がんの治療に精通し、患者さんとご家族の支援に対して、専門的なアドバイスと最適な薬物療法を 提供する知識と技術をもった専門家です。

 サイコオンコロジーには、大きく2つの目標があります。
1)  がんが、がん患者やご家族、スタッフの精神面に与える影響についての検討を行う。
  がんが患者さんやご家族の精神面に与える影響とその対処法を研究し、患者さんとご家族の精神的ストレスを和らげて、クオリティ・オブ・ライフ(生命の質・生活の質)の向上を目指します。
  同時にがん医療や患者さん・ご家族のケアに携わるスタッフの精神面の問題も扱います。

2)  精神的・心理的因子が、がんに与える影響についての検討を行う。
  心理的および社会的因子(家族、職場、地域、社会資源など)が、がんの発症や再発、治療経過、生存に与える影響について研究します。

 サイコオンコロジーの代表的な研究として、がん患者の精神・心理的苦痛に対するグループ療法を紹介します。

 1980年台には、Spiegelらが進行・再発期の乳がん患者を 対象に実存的心理療法を基盤とするグループ療法を実施 し、QOLの改善だけでなく生存期間の延長についての効果を報告しました(Spiegel et al. ,1989) 2000年に入り追試が行われ、グループ療法の生存期間についての効果は否定されていますが、QOL向上には有効であることが確認されています。  (Goodwin et al. ,2001) 日本では保坂らが、乳がん患者を対象とした構造化されたグループ療法プログラムを開発し(Hosaka et al. ,2001) 福井らも同様に乳がん患者を対象としたグループ療法プログラムを開発し、その有効性を確認しています(Fukui et al. ,2000)



 サイコオンコロジストの現状を説明します。
 患者さんとご家族が、いまのがん医療に強く改善を求めているものに精神面でのサポートがあります。いわゆる「心のケア」とは、腫瘍と診断されたときから、患者さんが日常生活を可能な限り変わらずに送れるように支援をすること、納得できる治療を受けられるように 支援をすることを意味します。

 「心のケア」をより具体的にあげますと、以下の3点です。
1 疾病や治療に関する適切な情報を提供すること
2 決して孤立しないように情緒的に支えること
3 治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、 気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように医学的なサポートを提供すること

 サイコオンコロジストの仕事は、次のようなものです。
 不眠(寝付きが悪い、寝ても途中で覚めてしまう)や食欲不振(食べようにも食べられない、食欲がわかない)。疲労やだるさ、不安、落ちつかなさなどさまざまな体の症状をあらわし、治療を妨げる原因にもなるうつ病を見つけ、がんの治療を続けられるように治療をすることが、サイコオンコロジストの仕事です。

 2010年度において常勤の精神腫瘍医(精神科医・心療内科医)が配置されている施設は、都道府県がん診療連携拠点病院では84%、地域がん診療連携拠点病院では65%です。
 今後、がんの治療を受けておられる患者さんとご家族のためにも、精神面でのサポートを充実させ、診断を受けたときから精神的なサポートを提供でするために、精神腫瘍医を広くがん診療 連携拠点病院に配置することが重要です。

 私たちサイコオンコロジストは、がん医療においてより優れた精神的なサポートを用意する努力を続けるとともに、皆様方に、がん診療連携拠点病院へ常勤の精神腫瘍医を配置するためにご理解とお力添えをお願い申し上げます。